3/4
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「散歩?」 「そう。夜の冒険だ。お母さんには内緒だぞ」 「内緒なの? 行く行く!」  内緒という甘い響きに、子ども心が刺激される。いけないイタズラをする喜び。胸がドキドキと弾んだ。  私はお父さんと手を繋ぎ外に出る。車の音、いつも道いっぱいに広がって歩く男子、毎朝ぶつからないか心配な自転車の群れ。今はどれもない。真っ暗な世界に、明かりがぽつぽつと浮いて見えた。  遠くに見える家の窓。色が変わる信号機。夜道に満月を落とす街灯。まるでくらげになったみたいだ。ふわふわ、足元が揺れる。お父さんと私で親子のくらげ。夜の中をひっそりと泳ぐ。 「おや、コウモリがいるね」  お父さんの指先に誘われて、上を見た。楽しそうに輪を描く、ギザギザの翼。私は口を開けてそれを見ていた。 「お父さん、私、今日のこと作文に書こうかな」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!