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「散歩?」
「そう。夜の冒険だ。お母さんには内緒だぞ」
「内緒なの? 行く行く!」
内緒という甘い響きに、子ども心が刺激される。いけないイタズラをする喜び。胸がドキドキと弾んだ。
私はお父さんと手を繋ぎ外に出る。車の音、いつも道いっぱいに広がって歩く男子、毎朝ぶつからないか心配な自転車の群れ。今はどれもない。真っ暗な世界に、明かりがぽつぽつと浮いて見えた。
遠くに見える家の窓。色が変わる信号機。夜道に満月を落とす街灯。まるでくらげになったみたいだ。ふわふわ、足元が揺れる。お父さんと私で親子のくらげ。夜の中をひっそりと泳ぐ。
「おや、コウモリがいるね」
お父さんの指先に誘われて、上を見た。楽しそうに輪を描く、ギザギザの翼。私は口を開けてそれを見ていた。
「お父さん、私、今日のこと作文に書こうかな」
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