10月

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「あの、とりあえずもうちょっと悪戯してもいいですか?」 「ダメ、です」 囁くように艶っぽい声を吐き出す彼。自分がそう言えば私が言うことを聞くと思っているんだ絶対。その手には乗るものか。 「え、困る。無理、拒否権ないから」 「でも、いい?って聞いてきたのはそっちでしょ」 「でも、この流れは可愛く“いいよ”っていうのが普通でしょ」 「私、別に可愛くないもん」 本当に可愛くないな。なんて言った後で自分が情けなくなる。狡いな本当に。私ばかりが好きみたいで嫌だ。 ぽつりと、小さく言葉を溢した。 「トリックオアトリート」 そう空気を震わせれば彼は目尻を垂らして「ごめんお菓子持ってない」なんて甘ったるい声で答えるから。 「……じゃあ、悪戯します」 コツンとぶつかったおでこを離して、私はそっと彼の唇に自分のそれを重ねた。 重ねるだけの軽いキス。体が、全身が熱い。 恥ずかしくなってパッと離せば、目の前の綺麗な顔は妖しく口角を上げた。 「可愛い」 「……え」 「なにそれ、反則でしょ。もう、絶対逃してあげない」 と、彼の舌が再び私の唇を割って入ってくる。甘い、甘いキスの嵐。そっとソファの肘掛けに体を倒され、覆いかぶさった彼を下から見上げる。 訂正。童顔中学生疑惑はやっぱり疑惑で。正真正銘、彼は立派な大人の男だ。 「トリックオアトリート」 彼のその言葉に、お菓子を持たない私はふるふると首を振った。 image=511961509.jpg
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