3月

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「……あの、用がないなら私、帰りますよ」 「え、いやそうじゃなくて」 「え、用がないのに呼び止めてごめんの、ごめんですよね?」 「だから、そうじゃなくて」 慌てた様子で「違う」を連呼する彼。ならばどういうことだというのか。さっぱり意味が分からない。 新手の、嫌がらせの類なんじゃないかとじろりと視線を注ぐ。 「ごめん、て言うのはさっき言った言葉。あれ嘘だから」 「えーと、どれですか?」 「貰った分のお返しだけ買ったって、ところ」 「と、言いますと?」 ん?と思わず眉根を寄せてしまう。要するにこの人はなにを言いたいんだ……? 自分の発した言葉が、違う捉え方になることに気がついたのだろうか。こんなに買うの大変、でも貰ったからしょうがないし的な。解釈の違い。 私は同性ではないので別にそこまで気に留めませんよ、とりあえずそれより何より帰りたいのですが、と心底思っていることは言えず。
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