3月

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「なんですか?」 「いいから」 なんだか感じ悪くないですか? ちょうど帰宅ラッシュで私達の横を過ぎていくたくさんの人々。 私はこんなところでなにをしているんだろうか。 目の前の突然無愛想になった人から小さな箱を受け取れば「開けて」と催促をされた。 綺麗に巻かれたリボンを解き、包装紙を剥いでいく。 姿を現したのは先ほどの甘い香りのする店で見た小さな箱。 「本当はこれを買いにきたんだ」 顔を真っ赤にしながら落とされた言葉。私はその小さな箱の蓋を開けた。中には淡く透き通る、まるで海の色のような綺麗な飴が収められていた。 先ほど目にした、誕生石の飴細工。 どうしてだろう。私は彼にバレンタインのチョコレートを渡してなどいないのに。 じっと顔を見つめた。すると、さらに赤く染まっていく。既に耳まで真っ赤っかだ。 「これ私にくれるのですか?」 「でなきゃ、わざわざ引きとめない」 「今日、買い物に付き合ったお礼ってことですかね?」 私が問えば「はぁー」っと目の前で盛大にため息を吐き出す彼。なんだ本当に失礼極まりないな。と思っていればするりと再度絡められた指先。 先ほどよりも熱っぽいそれに、本当にこの人は体温の高い人だな、なんて思った。
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