6月

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「じゃ、資料も見つかったことだし帰ろうか」 「え、ちょっと待って、傘持っていかないの?」 再び捕まった指先を引かれ部屋を後にする。立てかけられた傘は置き去りのまま。え、全くもって意味が分からない。なに?え、あれ? 「ねぇ」と何度呼びかけてみても応答はなし。あれ、ついに私の声が聞こえなくなってしまったのだろうか。 エレベーターに乗り、先ほどの受付のあるエントランスに戻ってきた。自動ドアが開き、むわっとした湿気の世界に出迎えられる。 雨はいまだに降り続いている。 「ねぇ、傘は?」 「……」 「持ってるなら私のこと呼び出す必要なかったよね?」 「……」 「ねぇ、聞いてる?」 引かれた手をこちらに引きながら、ねぇ聞いて!と催促してみるが効果はいまひとつ。 ゆるりと振り返った彼は無言で私の手からするりとオレンジ色の傘を奪った。 雨の中にそれを広げ「ほら、もっとこっち寄らないと濡れるよ」と今度はぎゅっと肩を抱かれる。 いや、さっきの傘を持ってきていたら濡れるであろう面積はもっと最小限にできたと思うよ。なんて、私より賢い彼に当たり前なことを思ったりする。
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