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「ごめんね、辛い思いたくさんさせて」
「……ヒック」
「ごめんね、誕生日にしか会えなくて」
「……」
「ごめんね、こんな俺が君のことを好きになって」
やめて。やめてよ。お前のことなんか嫌いだよって言って振ってくれればいいのに。こんなの狡いじゃないか。
彼は嫌いになることすら、許してくれない。
「泣かせてばかりで、ごめんね」
優しい声音で呟いたあと、またいつもの口調で「あれ、グラス空じゃん」なんて言って頭の上に乗せた掌でぐしゃぐしゃっと乱暴に私の髪を乱した。
「バーテンさん、すみません。彼女にバイオレットフィズをお願いします」
「ちょっと違うの飲もうか」と言って彼がバーテンダーに注文したのはさきほど聞いたものとは違うカクテルの名前。
「お客様申し訳御座いません。こちらの都合でバイオレットリキュールをきらしておりましてバイオレットフィズのご提供が出来ません」
「あ、そうなんですね」
「変わりに私のおすすめをお作りさせていただきますのでお待ちくださいませ」
有無を言わせないバーテンダーの言葉にするりと顔を上げると、にこりと、さきほど見た微笑みと目が合った。
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