7月

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「狡い、よ」 「うん」 「狡いよ。……こんなに好きに、させておいて」 「うん。俺、狡いんだ」 交わった視線がどうしようもなく私の心を剥き出しにする。 言ってはいけない言葉がある。 私は彼の1番ではないから。 でも、 「好き、だいすき」 「……」 「私だけを、好きでいてほしい」 1番にしか許されない言葉を告げてしまったら、さよならなのは分かっていた。でも、さよならをしに来たのだから、もうこれでいいのだ。 「迷惑かけてごめんなさい。我が儘言ってごめんなさい。でも今日で最後だから、もう会わないから」 そこまで言って絡められた指先は思い切り引かれた。無残にも彼の胸にダイブした私は彼の腕の中に閉じ込められる。 ムスクの香りに包まれて、また、涙腺が壊れた。 「苦しいよ」 「うん、ごめんね」 ぎゅっと抱かれた体は苦しくて「離して」とお願いしてみるけれど「ごめんね」を連呼するばかりで彼は腕の力を緩めてはくれない。 苦しくて死んでしまう。なんて思いながらこのまま彼の腕の中で死んでしまうなら、いいか。なんてどうしようもなく、みっともない未練たらたらな自分が嫌になる。
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