8月

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「いえ、とんでもないです。私の不注意ですみませんでした」 頭を下げ何度も謝っていれば突然するりと後ろに手を引かれた。私の体は今度は後方によろめき、違う人物に肩を抱かれる。 「だから危ないって言っただろ。気をつけろよ」 「……うん、ごめん」 振り返った先には何やら怪訝そうに眉根を寄せた幼馴染。 なにをそんなに怒っているというのか。あの人とは違ってまるで紳士じゃない。別に迷惑をかけたわけでもないのに。 「こいつが前を見てなかったせいですみませんでした」 「いやいや、本当に気にしないで。それにこんな可愛い子なら大歓迎だよ」 目の前のネイビーの浴衣の男性はにこりと微笑むと私を見つめた。その視線と言葉に思わずどきりと胸がなる。 例えリップサービスだとしても、こんな素敵な大人の男性に可愛いだなんて言われたら嬉しくない女の子なんていないはずだ。 「可愛いだなんて、そんな」 「うわ、気持ち悪い。なに照れてんだよお前」 「なんなのさっきから、あんたには別に迷惑かけてないでしょ」 腕の中から逃げ、なんとも失礼な言葉を吐き出した幼馴染に反抗する。 通り過ぎて行く浴衣を着た人々の群れの中、気持ち悪いという最低な言葉を女の子相手に吐き出す彼は紳士の“し”の字さえ持ち合わせていない。 幼馴染だからといって、言っていいことと悪いことくらいあるだろうに。本当に最低だ。
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