8月

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「あ、なんかごめんね、彼氏の前で可愛いなんて言って」 「いえ、彼氏じゃなくてただの幼馴染なので気にしないでください」 助けてくれた男性の言葉にすかさず訂正を入れる。彼氏に間違われるなんて、ごめんだ。それに向こうも絶対そう思ってるに違いない。 「お兄さん、こんな女やめておいたほうがいいですよ。ガサツだし口悪いし」 「なにそれ!酷い、最低!」 「もういいだろ、いつまで話してるんだよ行くぞ」 「え、ちょっと、」 話をしていれば手首を掴まれものすごい勢いで引かれる。「気をつけてね」という男性の言葉を聞き、私は引かれる手に従って幼馴染の背中を追った。 浴衣に草履という私のことなど考えていない彼は早歩きで手を引いていく。いい加減離してほしい。 第一、いま考えればどうして私はこんな人と花火大会なんか来てしまったのだろうか。幼馴染だなんていったってそんなの名前だけで小さい頃から家が隣で、親の仲が良くて、高校までずっと一緒だったというだけのこと。 大人になってからは会っても別になにか話すわけでもないし、ふたりで遊びに行くなんてこともなし、ましてや連絡さえ取ることもなかった。 それがどうしたことか。突然、彼のほうから花火大会に行こうなんて誘われて。こんなことになるなら来なければよかったなんて今更後悔したところで時間が巻き戻るわけもないのだけれど。
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