8月

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「なに、素直に謝ってるの。調子くるうじゃん」 「でも、ごめん」 「いや、なんか私も、言い過ぎたかも……ごめん、ね」 あれ、どうして私も謝っているんだろう。彼の今までにないくらいの潮らしい態度がなんだか私にも伝染しているみたいで、妙に息苦しい。 座る私の前に立ち、影を落とす彼の表情は暗闇のせいでよく見えなくて。座らないのかなと思い下からじっと見つめていれば、ふわりと彼の大きな掌が私の頬を撫でた。 「……むかつく」 「え、」 弱々しく落とされた「むかつく」というひと言に、私に向かって言っているのかと思えばそうではない様子で。 するりと、頬を撫でていた手が今度は私の指先に絡まり遠慮がちに握られた。すっと腰を下ろして前にしゃがみ込んだ彼。今度は私が見下ろす形になる。 触れた指先が熱を帯びて熱い。 「むかつくんだけど」 「……なにが、でしょうか?」 「なに知らない男に触られてんだよ」 「いや、触られたというか私の不注意でぶつかっただけというか……」 「……」 「……」 なんの間なのか。唇を閉じたままの彼はただ私を見つめるばかりで。眉尻を下げなんだか悲しそうな顔をしていた。 そもそもあの場にいたのだから見ていたじゃないかと思いつつ、それのなににむかついているのかはさっぱり分からない。
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