9月

6/7

191人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
彼の髪が悪戯に私を頬をくすぐった。 と、不意に低い声音が耳元に落とされる。 「会いたかった、から」 それは先ほどの私の質問に対しての答えで間違いないだろうと思う。 「会いたくて、会いたくて、緊急事態だったの。しかも今日は9月9日だから救急の日なんだって。救急だったんだよ俺は」 「だから、私を呼び出したと?」 「はい」 「会いたいのを我慢できなくて?」 「はい」 本当に意味が分からない。あんなに焦った私はなんだったのだろうか。そして、どうしてこの人はこんなにも頭が弱いのだろうか。 「ねぇ、それ医療に対して国民にもっと理解と認識を深めてほしいっていう日だから、大いに使い方間違ってるんだけど」 「え、」 「それに、私に会いたいのなんて別に緊急でもなんでもないしょ」 私が言えば、ぎゅっと先ほどよりも抱きしめる腕に力を込められる。苦しい。この人は私を抱き潰す気だろうか。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加