0人が本棚に入れています
本棚に追加
補講時の男子との対人方向性を見いだしてから、中央列やや後ろの席を陣取った。
ここが私の席。他の男子生徒との距離感も考えて、ここが一番のベストポジション!
一人、陣取った席に満足していると教室の扉が開き、予定の時間より早く先生が入ってきた。
「おっ、もうこれだけ揃っているのか。あぁ、八坂。お前は前な。目が悪いから」
「えぇっ!?」
先生が呼んだ八坂は、八坂夕梨花という私の名前だ。確かに目が悪いけど、コンタクトをしているし、そもそも補講で黒板を使う授業はなかったはず。
だから、ここの席にしたのに!?
「他の奴らも、もっと中央に寄れ。俺は、大きな声が出せんのだ。もっと真ん中に寄るんだ」
有無を言わせない、恫喝のような先生の言葉にその場に居た補習の男子生徒は、一気に真ん中へ寄ってきた。
しかし、みんな生け贄を差し出すように、私の後ろに座る。
「……まぁ、いいか」
私を矢面に立たせているというのに、先生は気にした風もなく名簿に目を落とした。
「八坂は居る……と」
先生は、一応というか何というか担任の先生でもあるので、私の顔をみてすぐに名簿に丸をつける。
「葦屋」
「はい」
私の真後ろで返事が聞こえる。挨拶を一番に返してくれた、若干、チャラそうな男の子だ。
「落合」
「はいっす」
右後ろの男子が返事をした。髪を短く刈り上げた、ガッシリとした体躯のスポーツマンっぽい人。
「鳥海」
「……はい」
左後ろから、気だるそうな返事がした。少しクセの強い髪で、少し眠たげな表情をした、言い換えれば大人びた表情をした、私の挨拶に返事をしてくれなかった男子!
「橋広」
「はいっ!」
さらに左後ろから元気の良い返事が聞こえた。二番目に返事をしてくれた、いかにも「勉強できます!」って感じの男子生徒だったはず。なんで補習してるんだろ?
「んで、最後に棗」
教室からは返事がない。たぶん、私が教室に来たときにすれ違ったヤンキーの名前だ。
「棗ぇー。居らんのか、棗ぇー」
先生は私たちを見渡し、教室を見渡し、そして件の男子生徒が居ないとなると、名簿に欠席をつけるために目を落とした。
どうしよう。居るのに。他の男の子たち、誰も先生に言わないのかな?
最初のコメントを投稿しよう!