プロローグ 『補習男子』

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 補講時の男子との対人方向性を見いだしてから、中央列やや後ろの席を陣取った。  ここが私の席。他の男子生徒との距離感も考えて、ここが一番のベストポジション!  一人、陣取った席に満足していると教室の扉が開き、予定の時間より早く先生が入ってきた。 「おっ、もうこれだけ揃っているのか。あぁ、八坂。お前は前な。目が悪いから」 「えぇっ!?」  先生が呼んだ八坂は、八坂夕梨花という私の名前だ。確かに目が悪いけど、コンタクトをしているし、そもそも補講で黒板を使う授業はなかったはず。  だから、ここの席にしたのに!? 「他の奴らも、もっと中央に寄れ。俺は、大きな声が出せんのだ。もっと真ん中に寄るんだ」  有無を言わせない、恫喝のような先生の言葉にその場に居た補習の男子生徒は、一気に真ん中へ寄ってきた。  しかし、みんな生け贄を差し出すように、私の後ろに座る。 「……まぁ、いいか」  私を矢面に立たせているというのに、先生は気にした風もなく名簿に目を落とした。 「八坂は居る……と」  先生は、一応というか何というか担任の先生でもあるので、私の顔をみてすぐに名簿に丸をつける。 「葦屋」 「はい」  私の真後ろで返事が聞こえる。挨拶を一番に返してくれた、若干、チャラそうな男の子だ。 「落合」 「はいっす」  右後ろの男子が返事をした。髪を短く刈り上げた、ガッシリとした体躯のスポーツマンっぽい人。 「鳥海」 「……はい」  左後ろから、気だるそうな返事がした。少しクセの強い髪で、少し眠たげな表情をした、言い換えれば大人びた表情をした、私の挨拶に返事をしてくれなかった男子! 「橋広」 「はいっ!」  さらに左後ろから元気の良い返事が聞こえた。二番目に返事をしてくれた、いかにも「勉強できます!」って感じの男子生徒だったはず。なんで補習してるんだろ? 「んで、最後に棗」  教室からは返事がない。たぶん、私が教室に来たときにすれ違ったヤンキーの名前だ。 「棗ぇー。居らんのか、棗ぇー」  先生は私たちを見渡し、教室を見渡し、そして件の男子生徒が居ないとなると、名簿に欠席をつけるために目を落とした。  どうしよう。居るのに。他の男の子たち、誰も先生に言わないのかな?
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