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いつの日からか、自分がかなり人間に近付いたものだなと思い始めたものですが、きっと私には永久に人が持つ『飽きる』という感覚だけは理解出来ないのだと思います。
なぜなら私は歌う度に人々と過ごした日々が鮮明によみがえり、いつでも幸せな……幸せな気持ちになれるからです。
『いつの日にか』
遠くから風が草の頭を撫でて近付いてくるのを横目で感じ、髪をおさえて、その歌の詩を口ずさみました。
いつか知って欲しいという思いを綴った詩。
それは『彼』と過ごした時代の歌。
『彼』が好きだった歌。まだ私に感情が芽生える前に聞いていた歌。
当時の私はそれをどんな想いで聞いていたのでしょうか。
苦笑。
想いなんてなかったですね。
歌うことなどなかった当時の私がもし『彼』の前でその歌を口ずさんでいたら、『彼』はどんな顔を返してくれたのかな。
「あら」
海がしぶきをあげています。きっと私の歌を聞いてイルカたちが遊びに来たのでしょう。
彼等と交わり始めてから、もう何千年もの時が過ぎました。
初めは海ではしゃいでいる彼等の様子を遠めから眺めているだけでしたが、彼等が発している信号に気付き、受信用のセンサーを自作し、彼等の言葉を知り、時をかけ意思の疎通が可能になりました。
彼等は人々の代わりに、かつて人間が暮らしていた都市を泳いで暮らしています。
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