永遠に奏でるオルゴール

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そして彼は「すまない」と呟き、私が機械人間であることを初めから知っていたと告白します。 「僕は君がいなくなるのが怖くて、この歳になるまでずっと自分を偽って生きてきてしまった。本当に、馬鹿だったな」 そして彼はその時になって初めて私の目的に迫りました。 「君は一体どうして僕のところに来たんだい?」 「体を組織する部品を換装、また拡張するための知識と技術を得るためです」 それは、酷く残酷な答えであったと、今では苦しく思います。 しかし、 「そうか。なら、良かった」 彼はそういってやさしく微笑みました。とても穏やかな表情で。あたたかな、顔で。 そして最後に彼は言いました。 「ーーーーーーー」 やはり、その一言だけは今も思い出すことが出来ません。 その一言を聞いた瞬間が、私の中に感情という泡が浮かび上がった最初の瞬間だったと認識しているのですが…… 彼の命の灯火が消えた時、私の手の平には1枚のストレージデバイスが握られていました。 そこには当時の私が渇望していた知識と技術の最後の一欠片、そして未来への道標が記されていました。 その日から私は、部品を入れ換えて自己を作り替える作業の傍らで無機質なデータとして存在していた記録を指でなぞり、思い出に変えていくようになりました。     
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