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あまりに美しい音。それに、義光は惹かれたのではない。気づいた。
「ちっ。あの爺。病よりも厄介だ」
義光は足早に音の方へと向かう。音の先にいるのは何か。しかし、なかなか見えない。
「ーー」
気配を辿って着いた先にいたのは、女房装束の女性だった。美しい顔立ち。義光は思わず見とれていた。しかし、生気がないことに気づくと、ゆっくり近づいていた。
「お前が、見せているのだな?」
その問いは女にではなく、女が奏でている琴に向けてだ。
「はい」
女が、そう答えた。
「美しいな。我が家はボロ家だが、それでも来るか?」
義光がそう訊くと、女は嬉しそうに頷いた。そして、すっと姿を消す。残されたのは、朽ちかけた琴だけだった。
「それって、ただの怪談じゃ…」
思わず侑平はそう突っ込む。
「いいや。だって」
礼門はそう言うと、部屋の入り口にあたるふすまを見た。全員の視線がそちらに向く。
「やっぱり京からここは遠いですわね。あら?」
ふすまを開けて現れたのは、美しい和服姿の女性だった。女性はきょとんとし、部屋の中にいた侑平たちは固まる。
「せっかく来てくれたのに、大人数がいて悪いな」
そして、礼門だけが冷静にそう答える。
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