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よろず探偵事務所
「ナツをさがしてもらえませんか」
昼下がり、川海老の唐揚げとノンアルコールビールでまったりしていた俺に、依頼人は言った。
「こちらは、探偵事務所ですよね?」
よろず探偵事務所。古びたドアには、確かにその名称を掲げてはいるのだが。
「失礼しました。生憎所長は不在で。御用件だけうかがっておきます」
留守番要員の俺は、依頼人に一応席を勧め、唐揚げの皿とノンアルビールをサイドテーブルによけた。
依頼人は、俺の目の前にちょこんと座る。
そう、ちょこんと。
華奢な身体より少し大きめのシャツと学生ズボン、成長期を迎える前の中学生男子といったところか。
しかし、所長である叔父のモットーは、来るもの拒まず。
中学生といっても、依頼人は依頼人だ。
「ナツをさがしてください」
肝が座っているなぁ、と感心する。 探偵事務所という、日常生活では関わることのない場所に来ることなど、そうちょくちょくあるものではないだろう。にもかかわらず、出された麦茶をひとくち飲んだ後、彼は依頼内容を再び口にした。
「家出、ですか」
手元の依頼人カードに依頼内容としてメモをとる。
「昔はあんなんじゃなかったんです。最近はとても荒れたり、思いもよらない危害を加えたり」
俺の質問に対する回答というより、独白のように言葉を紡ぐので、頷いて見せる事で続きを促した。
非行少年になった兄を、捜す弟、か?
「早い時期から、女性たちが次から次へと発生して、今までとは違う行動を起こすものだから 避難も間に合わなくて」
次から次へと女性が、なんて羨ましい気持ちもあるが、避難しなきゃいけない程に修羅場るのは、迷惑だよなぁ。などと依頼人が聞いたら、怒りそうな事を考えつつ、ペンを動かす。
「どうにかしないと、取り返しのつかないことになる」
独白のさいごの呟きは、とても低い声だった。
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