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「じじいー。とうもろこし、もいでもいい?」
「おう。食え食え」
実家に一人で暮らしていた祖父もそんな農家の一人だ。
「なあ祥世。別に農家を継ぐ必要はねえど? お前の父さんが先に逝っちまった時にもう腹は括ったんだからなあ」
日照時間の少ない今年は、とうもろこしが一回り以上も小さかった。
「それはもう聞いてるよ」
それを決めるために帰って来た様なものでもあった。
「ほらよ、三軒谷の三島さん家も農家辞めたんだわあ」
「え。あんな大きい土地だったのに?」
「あそこは皆嫁に行ったし、継ぐ人も見当たらなんだ」
「嫁いだのかあ」
「同級生もいたんべ? 売れ残ったのはお前だけだど」
「余計なお世話だ」
乱暴にもいだとうもろこしが悲鳴を上げた。
「農家よりも必要なのは多分なあ」
「何?」
「墓守だわな」
「墓守? 何。墓増えた?」
田舎には至るところに墓場がある。自分の家の庭に建てる者もいるが、ここいら一帯はだいたい同じ墓場で弔っていた。寺はなく、盆の時期に都会の寺から出張僧侶が来るだけだった。
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