始まり

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始まり

 先日、高校卒業後から十年間勤めていた会社に辞表を提出した。何か渋られることもなく、その辞表はその日のうちに受理された。  至って極普通の二十八歳。何か特技や趣味があるわけでもなく、したいこともない。向上心もなければ、何か誇ることもない。兎に角、何もない。 「おーい。じじいー。帰ったよー」 「おう。お帰り」  一人暮らしの牙城を解約し、実家に舞い戻ることにした。実家は田舎と都会の中間に当たる町にある。都会にある激安衣料品店がこの町に出来ただけで、ここいらの老人は何だかそわそわとしていたものだ。中には、紅白餅を配るのではないか、と勝手な予測をしてビニール袋片手に、新規開店日の朝から騒ぐ中年の男性がうろついていたこともあった。  そういう田舎寄りの側面もあれば、意外と都会的な側面もある。農家が多く、運転を辞めた老人も多い。若人(わこうど)もいると言えばいるが、手は回らない。そんな老人たちはタブレット電子端末やインターネットショッピングを駆使し、宅配サービスを利用する。そこから、自慢の農作物をアピールするために、インターネットを使用する。生きる上で必要ともあれば、貪欲にその知識を手に入れ、ものにする。     
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