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第三話~男たちの現実~
それは突然やって来た。大きめの白い封筒にくるまれながら、音もなく颯爽とやって来た。
「おい。駿太。そろそろ嫁を貰う気はねぇのか?」
「……急にどうしたんですか?」
祥世と花太郎と過ごした日がそう遠くもないはずなのに、随分と昔の思い出のように感じていた昼下がり。お世話になっている農協組合の人が、興奮気味に言って来た。
「いやあよ、俺の妹のところのな? 一番ばっちがな、これまた別嬪でなあ。ほら、こないだまで農業インターンで来てた大学院生いたっけよ?」
「……あー。あの色白で小綺麗な」
「そうそう! 化粧も上手でな、何だ、あれ、そうだ! 読者モデルっつうのもやっててな」
「……」
「可愛いだろう? 長女も次女も結婚してるし、あとはばっちの、末っ子だけよ。どうよ」
「……どうよと言われましても」
「ほれ、これ見れ!」
手渡されたその封筒を開けるよう促された。見なくともわかる。大抵の人間なら気付くだろう。
「あれがな、お前を気に入ってな。どうだ? 心配せずとも、妹夫婦はいいやつらでな」
「何で俺に?」
「何でってなあ。お前の父さん母さんが心配してっけよ。女の気配すら感じないってな」
確かに、恋愛よりも農業を優先していたのは事実だ。だがそれも好きでやって来たことだ。
「駿太。家庭を持て。この町の農業を支える数少ない若者だ、お前は。責任と生き甲斐を増やせ」
それは到底無理な話だ。責任と生き甲斐が増えることは苦にならない。ただそれも、たった一人が側にいればの話だ。
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