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それは、無意識の行動だった。私は寝転んでいたソファから身を起こすと、スマートフォンを掴み上げた。
「母ちゃん、今から帰ってもいいかな? 着くの遅くなっちゃうし、盆休み明日までで一泊しかできないけど、明日の送り火に一緒に行きたくて」
コールした先は、実家。
すぐに出た電話口の母は、昔から変わらない声で「いつでもおいで」と言って笑う。
母の一言で、忙しさの中でキュウキュウに軋む心が、ふんわりと温かに綻んだ。
「母ちゃん、これからすぐ帰るから!」
電話を終えた私は、大急ぎで取る物も取りあえずアパートを出た。無性に実家が恋しく感じ、物凄く心が急いた。
実家に辿り着いたのは、すっかり日も落ちて暗くなってからだった。実家の玄関に、お客様はいなかった。
「寛子! お帰り!!」
だけど玄関には、ずっと変わらない母の笑顔があった。久しぶりに顔を合わせる母は、なんだかひと回り、小さくなっているように感じた。
それでも、周囲を明るく照らす様な笑みは、寸分も変わっていなかった。
「ただいま、母ちゃん!」
帰る場所、変わらずに受け入れてくれる場所……。言葉ではうまく言い表せないあらゆる感情が忙しなく胸を巡る。
じんわりと、目頭が熱くなった。
「ほらほら、玄関先につっ立ってないで、早く上がんな。父ちゃんも、待ってっから!」
「うんっ!」
私はギュッと瞼に力を篭めて、笑った。
これ以降、お盆が来ると私の足は自然と実家に向く。私もご先祖と一緒になって、温かで優しい場所に帰る――。
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