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決まって、お客様は迎え火の前に現れた。
「お母ちゃん! 玄関のところにまた来てるよ!」
台所の母に向かって声を張る。すると母は夕食を準備する手を止めて、濡れ手を前掛けで拭いながら駆けて来た。
「どーれ? あら、ほんとだねぇ! じいちゃんばあちゃん、今年も来てくれた?」
覗き込んだ母が、お客様に「じいちゃんばあちゃん」と呼び掛けて微笑む。
毎年、繰り返される光景だった。
「じいちゃんばあちゃん、ゆっくりしてってくださいね」
私は母が台所に戻っても、少しの距離を置いてしゃがみ込み、玄関の石段に行儀よく座ったお客様を飽きずに眺めていた。
お客様というのは、握りこぶしくらいの大きさのガマガエル。田舎にあってもあまり目にする事のない、とても大きくて黒々した立派な個体だった。
私も母も、ガマガエルの個体を判別できる訳じゃない。
同時に私も母も、特別スピリチュアルな事象に傾倒している訳じゃない。
だけど似たような大きさで、似たような色をしたそれは、なんとなく同じガマガエルな気がしていた。
「ひぃじいちゃん、ひぃばあちゃん、毎年迷子にならないで偉いねぇ」
ある年に、ふっと現れて、それから毎年同じ時期に現れるようになったお客様。母は自然と「じいちゃんばあちゃん」と呼び掛けるようになり、それを耳にした私も自然と「ひぃじいちゃんひぃばあちゃん」と呼ぶ。
それはとても純粋で、自然な感情。ただ、素直な心でお客様の来訪をお迎えしていた。
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