残業

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 気がつくと僕は、コーラの空き缶を片手にぼんやりとベンチに腰掛けていた。  夜の公園は蒸し暑く、じんわりと汗が噴き出てくる。  先ほどの不思議な体験を思い出し。  少女の顔を思い浮かべる。  そして思い出した。  小さな頃、家の近所の公園でよく一緒に遊んだ名も知らぬ少女がいた事を。  また遊ぼうと毎回口約束をかわし、そしていつしか一緒に遊ぶことは無くなっていた。 「・・・あれ? なんで・・・」  頬に暖かい水が伝う。  友達だと言ってくれた。  幼い頃何度か遊んだだけの名も知らぬ僕に。  夢も希望も無い、抜け殻のような僕を。  友と、呼んでくれたのだ。  闇のヴェールは静かに夜の公園を包み、名も知らぬ虫たちのオーケストラがただ一人の観客のために鳴り響く。  今しばらく、涙が涸れることは無さそうだった。 FIN
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