残業

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気がつくと僕の目の前には小さな女の子が立っていた。  チューリップのプリントがされた白いTシャツに真っ赤なスカート。目線の高さで切りそろえられた前髪が少女の勝ち気なつり上がった瞳を強調しているようだった。  おかっぱ頭の彼女は、どうも時代錯誤な違和感があって僕を戸惑わせるが外気の熱さがそんな僕から静かに疑問を奪ってしまう。 「いや・・・僕は別に遊びたいわけじゃ・・・」  しかし少女は僕の言葉も聞かずに首をかしげると、唐突に僕の右手を握った。  子供独特の高い体温と柔らかな手のひらの感触にはっとさせられる。 「いいから、いきましょうよ」  そう言って半ば強引に手を引かれ、僕は公園の奥へと歩いて行った。何故かその手を払う気にはなれなかったのだ。  夜のヴェールに包まれた公園を、まるで恐れることは無いと言わんばかりに突き進む少女。  僕は手を引かれるままに着いていき、いつの間にかたどり着いたのは陽光の差す昼間の見知らぬ公園だった。 「・・・あれ? なんで昼・・・・」  思考が上手く働かない。  常識的に考えてありえない事態が起こっているのに、僕の心の中では何も不思議な事なんて無いんだと、この現象を受け入れている自分がいる。 「ついたわよおじさん! さあ一杯遊びましょ」  それから僕はしばらくの間、流されるように少女と遊んで過ごした。  縄跳びにあやとり、公園の遊具を使って遊んだり二人で追いかけっこをしたり。まるで童心に返ったかのように無邪気に遊んでいた僕は、公園内に響く正午を知らせるサイレンの音を聞いてふと我に返った。 (こんなことをしている場合じゃ無いな。明日の仕事も早いからすぐ帰って寝なきゃ)  不意に立ち止まった僕を不審に思ったのか、少女は心配そうな表情を浮かべてこちらの顔を覗き込んできた。 「どうしたの? おじさん大丈夫?」 「・・・ごめん、そろそろ帰らなきゃ」  僕の言葉を聞いた少女は眼をうるうると潤ませて僕の服の裾をぎゅっとつかんだ。 「なんで? 私と遊ぶの楽しくなかったの?」 「・・・違うよ。楽しかった、でも明日仕事があるんだ」 「仕事?」  少女はきょとんと首をかしげる。 「それって友達と遊ぶことより大切な事なのかしら」
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