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「・・・そうだね。きっと大切な事なんだ」
その言葉を聞いた少女はしばらくじっと僕を見つめるとぽつりと呟いた。
「つまりおじさんは仕事が好きなのね?」
その問いに何故か僕は動揺してしまう。
大切な事と好きな事。それを何の疑いも無くイコールで結べてしまうその純真さに目がくらんだのだ。
「・・・好き・・・では無い・・・・・・と思う。ただ必要なんだ・・・お金を稼ぐために」
「それは友達よりも大事?」
「・・・ああ、きっと」
そう、それはきっと大事な事だ。
お金を稼ぐため。
社会の一員として立派に貢献するために。
「でも・・・おじさんは何だか幸せそうに見えないわ」
ハッと少女の瞳を見る。
どこまでも澄んだ宝石みたいな瞳がまっすぐにこちらを見上げていた。
「おじさんは幸せじゃ無いけど必要だから会社に行くの?」
答えられない。
僕にはその問いにふさわしい答えが用意できない。
何故
何故僕は働いているのだろう?
生きるため?
お金持ちになるため?
少なくともここ数年、胸を張って幸せだと言える日なんて無かった。
(じゃあ何で僕は今の会社で働いているのだろう?)
わからない
わからない
「ごめんなさい。困らせるつもりは無かったの」
思考の迷路に迷いかけた僕を少女の幼い声が現実に引き戻した。
「また一緒に遊びましょう。約束よ」
そう言って無邪気に笑いかける少女。
何故か視界がだんだんぼやけてくる。
ゆらゆら
ゆらゆらと
「・・・君は何で僕と遊んでくれるんだい?」
ぼんやりとした意識の中、僕は少女に問いかけた。
「決まっているじゃない。友達だからよ」
そう言って笑いかけた少女の顔は何かとても懐かしいような、そんな気がしたのだった。
◇
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