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恥かしいことに、二人とも朝まで手を握り合っていた。
正確には、途中何度も離れたが、そのたびに、どちらともなく互いを手繰り寄せていたのだ。
健一は、スダレが消えてしまわないように。
スダレは温もりにすがり付くかのように。
こんなにも誰かに求められ、守りたいと思ったことはきっとない。
一度だけ、スダレは小さな寝言で「てつ」を呼んだ。
そうか、あの凍りつくような目をした『怖い男』は、お前を暖める熱を持ったヤツなのかと…夢うつつに考えた。
スダレを、その熱で覆い尽くし守るのは、自分じゃない。
叔父でもない。
きっと親でもなかったのかもしれない。
そこに計り知れない過去がある。
自分には想像もつかない過去が。
知ることさえ許されない過去が……。
そんな気がした。
桜の涙の中で、少年が微笑む。
お願いだ。
その美しさを閉じ込めさせてくれないか。
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