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 健一は、いつもクラスの中心にいる。  擦り寄ってくる者。  反発する者。  適当にまとめて、そつなくあしらうのは得意だ。  そんな健一が見落とした生徒だ。 「え? 初めからいた?」 「いたわよー。陰気臭い子だから返って目立ってた。誰とも話しをしようとしないの。ちょっと変わっているのかもね」 「へー、見るからに勉強しに来ました! って雰囲気だな。すげー眼鏡。今時あんなのアリ?」  眼鏡と長い前髪で顔半分を覆っている。  額縁のような幅広眼鏡で鼻の形もわからない。  ヘンなヤツだ。  やけに色白な肌と幼い子供みたいな口元が、余計に気味悪く見える。  女はああいうナヨっとした男を毛嫌いするものだ。  自分も好きじゃない。  ひとしきり「額縁君」だの「緞帳(どんちょう)男」だのと、クスクスと笑いあった。  ソイツはよほど眠かったのか、ウトウトと舟を漕いで首を揺らしては失笑を誘う。  予備校は勉強をするところだ。  友達を作る場所ではない。  視界には入ってくるだろうが、特に関わり合うこともないだろう。  そんな印象の薄さだった。
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