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「バイト代入ったら奢ってやるからさ」
「ほんと?」
「メシでも食いに行こうぜ」
――あ…しまった。
ぱぁっと明るくなったマリの顔に、今度は後悔が込み上がる。
期待を持たれるのは好きじゃない。
マリは都合のいい女になりきれない野暮ったさを持っている。
経験上、深入りは禁物なのだ。
中途半端な愛想笑いをして手を振った。
窓際の席で、あの額縁緞帳男が誰かと話をしていた。
机に腰を引っ掛けて、アイツを見下ろしている男は、クラスでも目立つ体格のいい石川というヤツ。
粗野な物言いや行動で評判はよろしくない。
案の定石川は、アイツがデイバックから取り出した財布を取り上げ、当然といった顔で睨みをきかせた。
この歳になってもまだ弱い者いじめをするのかと呆れたが、なんの抵抗もせずに財布ごと奪われるアイツもアイツだ。
見るからにガリ勉タイプなのに居眠りをしたり、簡単に強請られたり、地味でダサくて冴えないヤツ。
すっかり白けた気分になって予備校を後にした。
たちまち健一の頭の中は、今日のバイトでいっぱいになった。
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