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途切れた会話に不安が募ったが、何かあった時に思い出すのは家族のはずだ。
親がどんなに頭の固い俗物であっても、殺したいと憎んでも、ぶつかり合う根底に、逆らえない無償の想いがあるのを健一は知っている。
16歳で離れたと言うスダレの家も家族も、何があったって忘れるはずがない。
そう思った。
「思い出すとしたら、お祖父様か能瀬さんかな」
「のせさん?」
「ぼくの世話係りだった人。厳しい人だったけど、そういえば手を繋いで散歩したかもしれない。でも、それとも違うなぁ…」
「結局、このまま手ぇ繋いでてくれってのか?」
「ダメ?」
「ダメだって言ったらむくれるくせに」
「気持ち悪い?」
「もう慣れたぜ」
「ありがとう…」
「いいさ」
子供じゃあるまいし、男同士が布団を並べて手を繋いで寝転がっているのは、どう考えても不自然だし有り得ない。
それでも、
「健一君が先生に会えなくなったのは、きっとぼくの所為だね」
そんなことを寂しそうに言うスダレを、どうしようもなく守ってやりたかった。
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