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「おれは何も知らねぇぜ?」
「知りたい?」
「聞いてどうだってんだよ。お前は何も悪くない。叔父さんがそう言うんだ。それでいいじゃん」
「やっぱり先生と健一君は似ている…」
知りたいことは山ほどある。
今だったら、わがままで気まぐれなスダレでも、素直に自分の過去を話してくれるだろう。
それでも、スダレが不安定に流す涙やすぐに冷えてしまう指先に、自分には想像もつかない苦しい過去があり、頑なに家族の話を口にしない心情を思うと、何を言い、何を聞いたところで、受け止める度量もない。
こうして、手を繋ぐくらいしか…。
――おれは甘いのかな
親の気持ちが鬱陶しいと反発しながら、叔父を排斥した周囲を憎みながら、それでもなお親を頼るしかない自分は、スダレよりよほど子供だ。
それはある意味幸せなのだろう。
スダレが静かな寝息をたてはじめた。
時折確認するかのようにピクリと指が動く。
闇が、スダレを柔らかく包み込み、深みへ連れて行った。
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