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受験に失敗した健一は、国立大学を出て立派なサラリーマンになるという両親の希望と教育方針に説き伏され、しがない浪人生となった。
遊び過ぎだと言われたら反論は出来ない。
アリとキリギリスよろしく、どうにかなるさと思っていた健一を、鼻で笑っている奴等の顔も思い浮かぶ。
勉強にしか興味がないガリ勉がクラスの半数を占める進学校で、上位をキープしつつ、女をとっかえひっかえした。
そんな健一を羨ましそうに見るクラスメイトをバカにした天罰を、いい気味だと思っている連中も多いだろう。
そんなテンションの低い春だったが、桜は綺麗に咲いている。
喫茶店のオープンテラスはまだ肌寒く人影はない。
目の前で咲き誇る桜の花びらを受けながら、面白くない予備校生となった自分と向き合った。
風を受け、柔らかい雲のように揺れる枝先をじっと見る。
目を閉じる。
頭の中の白いキャンパスに花びらが散る。
この色をどう閉じ込めよう。
匂いごと写しとってしまいたい。
考えるだけで身体は熱くなる。
今年も絵筆をとることが出来ないのかと。
それだけが寂しいのであって、後は勉強と遊びをどう両立させるかが、当面の課題だ。
所詮人間なんてそんな生き物だ。
絵は、描こうと思えばいつでも始められるが、遊びたい盛りの今を抑えられるもんじゃない。
それでも目を閉じる。
頭の中にある手は、風を描こうと必死になっている。
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