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どれだけそうしていただろう。
溢れる花びらを捕らえた気になって目をあけると、桜の精が目の前にいた。
桜妄想に入り込みすぎたかと目を擦ると、テラスの隅のテーブルで、じっと桜を見上げている少年がいる。
多分少年だろうと思われるほど、その横顔は繊細で儚い。
細身のミリタリーに黒のジーンズと言うありふれた格好だったが、どことなく上品な匂いがするのはその顔のせいだろうか。
もっと違う何かがあるようで、気にはなったが、行きずりの出来事にそこまで考えを巡らすのも意味はない。
少女と見間違えそうに嘘っぽく綺麗な少年を、桜の精だと考えた幼稚な自分を恥かしく思いながら、今にも消えてなくなりそうな風情に目を奪われる。
桜の花びらを含んだ風が少年の柔らかな黒髪を撫でていく。
遠目でも、惹き付けられる白い肌だった。
だがその表情は遠くを見るように寂しげだ。
泣いているのだろうか。
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