忘れ物

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忘れ物

 大変な忘れ物に気が付いたのは、深夜0時を過ぎた時だった。  ベッドの上で転がりながら、床に置かれた学校の鞄に手を伸ばす。気紛れに中を漁っていた僕の指先は、いつもあるはずの感触を求めて動き続けた。隅々まで何度も往復し、その度に、違和感が少しずつ大きくなっていく。  そして、“あれ”がないことに気付いた瞬間、僕は跳ねるように起き上がると、勢いよく鞄を掲げ、ついさっきまで横になっていたベッドの上に中身をすべてひっくり返した。 「ないっ?!」  床に転がる小銭やメモ用紙。夏色の探し物がないと一目でわかると、困惑と焦燥が入り混じった悲壮な悲鳴が夜の闇に響いた。熱さによる身体の怠さと眠気は一瞬のうちに吹き飛び、替わりに震えと共に冷や汗が流れ始める。 「やばい、やばい……」  呪文を呟くように同じ言葉を口にしながら、何度も鞄の中身を確認する。ノートや教科書を手にとっては、何度も同じページを捲り、間に挟まっていないか確かめる。  サイズ的に入るはずのない筆箱や財布の中まで目を通し、漸く、学校に忘れてきたのだと認めた僕は、軽装であることも気にせずに、自転車に乗って夜の街へ飛び出した。
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