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ゆっくりと教室の中に入ってくる足音。強がってはいても緊張しているのか、口数の多い声が段々と近づいてくる。このままではベランダまで確認されそうだ。
「おい、鍵開いてるぞ」
危機はドア一枚のところまで迫っている。心臓が高鳴り、吐き気がするのはこの暑さの所為だけではないはずだ。
先制攻撃に出る覚悟を決めた僕は、ドアに手をかけられた瞬間、勢いよく立ち上がった。その刹那、暗い校舎に金切り声のような悲鳴が響き渡る。
「えっ?」
「どうしたっ?!」
「きゃあああああああ!」
ドアを開けようとしていた音が止み、廊下を駆けていく足音に変わる。
「ベランダに何かいたー!」
「きゃああああ」
その台詞に背筋が凍り付く。悲鳴を上げて真っ先に逃げていったのは、自分たちの教室に残っていた女子たちなのだ。
ベランダに何かいた。
それは隣の教室のベランダにいる僕の姿を見たという発言ではない。
僕以外にベランダには誰かいる。そう考えがおよぶと、右側から視線を感じるような気もする。更には声をかけられているような気もするが、絶対に応えたらいけないやつだ。
これまでにない動きで教室に戻った僕は、素早くベランダのドアを閉めると鍵をかけた。扉を閉める行為が幽霊相手にどれだけの効果を発揮するか分からないが、閉めずにはいられないのが人間の性だ。
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