忘れ物

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 とは言え、校舎はすべて施錠されている。建物の中に侵入する為には何処かの鍵を開けておく必要があり、彼らはその候補地に精通しているようで、楽しげに教室を後にしていった。  嵐が去った様に静かになった教室で、ぼそりと声が聞こえる。  先生たちにチクるか?  逆に俺らも侵入して脅かしてやるのもよくない?  そんな声を聞きながら、僕は食べ終えた昼食を片付けていた。夏休みの課外授業は午前中だけで、お昼からは自由に過ごせる。受験生である三年生は夕方まで補講があるようで、上の階からは、授業をする先生たちの声が聞こえていた。  日差しは暑く、青空は高い。白く分厚い雲は低い位置を漂い、蝉の声が夏の訪れを告げている。グラウンドから聞こえる運動部の掛け声と共に、窓の外から流れ込んでくる生暖かい風を感じながら、僕は鞄に忍ばせている手帳に手を伸ばした。
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