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黄緑色の匂いに急かされるように目を覚ますと、白い天井と壁が迎えてくれた。昨日の甘い桃色の香りは身を潜めていて、春が終わって次の季節へと移り変わったことを、私は何年もかけて体の奥底に刻み込まれた模様のようなものによって感じ取っていた。
これから少しずつ、体の中の水と空気が入れ替わって、夏の体に近づいていくのだろう。とはいえ、四季があるこの地域では、表面がやっと入れ替わる頃には次の季節が来て、奥の方に沈み込んだものはずっと沈み続ける。
「起きた? うわっ、暑くない?」
ルームシェアをしている同居人が開け放していたドアから足を踏み入れて言った。体に意識を向けると、確かに汗だくだ。同居人がベッドの脇に不自然な角度で落ちていた本[*1]を拾い上げると、その下にエアコンのリモコンが埋まっていた。同居人がそれも拾ってエアコンに向け、角度をずらしながら何度かボタンを押すと、電子音とともにエアコンの口が開いていった。
本とリモコンがローテーブルの上に置かれる。
「うん、シャワー、浴びる」
「じゃあ朝食用意してるよ」
「ありがと」
「ん」
同居人が私の部屋から出ていく。ドアが閉まる。エアコンが微かな音と匂いとともに冷たい風を吐き出し始めて、同居人が気づかないほど小さく開いた窓の隙間から絶え間なく流れ出てくる空気と混じり合う。
私の手がタオルケットをはぐ。体の周囲から、温かい空気が逃げていった。
[*1]: 安堂維子里『世界の合言葉は水』(徳間書店)
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