1、夏をひと掬い

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1、夏をひと掬い

今日こそは、美咲(みさき)を外に連れ出そう。 がらんどうになった駐車場をビーチサンダルで横断していると、そんな衝動が湧いてきた。蝉たちが夏を輪唱する八月。四年の付き合いになる美咲とアイスを賭けてジャンケンし、あっさり一回戦で敗北したおれは、コンビニでお使いを済ませた帰り道だった。 汗でピタピタになったポロシャツをぱたつかせながら、送電線の向こうに広がる夏空は見上げる。パステルカラーの青いキャンバスに、柔軟剤を混ぜたようなふわふわの白雲が漂っている。今日は休日、それも絶好のデート日和だ。部屋に引きこもるなんてもったいない。 そう思いながらも、おれは手で(ひさし)を作って低い声でうなった。 だがいかんせん、暑すぎる。出不精の美咲を説得するのは骨が折れそうだ。 アパートまで戻ってエレベーターに乗り込む。なかは蒸し風呂状態で、顔から噴き出した汗は塊となって首筋を流れた。 これはたしかに、テレビで連日報道されているとおり、近年稀にみる猛暑日だ。ここ一週間で熱中症がうなぎのぼりと聞く。現に会社の同僚の数人が暑さにやられて、病院の厄介になっていると業務連絡があった。それも納得だ。     
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