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「どうしても嫌です」
「あ、瀧さん」
仕事が終わり会社から出ようとしたところ、背後から名前を呼ばれて振り返れば声の主は同期の楓くんだった。
「これ。資料、デスクの上に忘れてたよ」
「ごめん、わざわざありがとう」
グレーのスーツを綺麗に着こなし「はい忘れ物」と言いながらするりと資料を挟んだクリアファイルをこちらに差し出してくる。
にこりと微笑んだその表情は、人懐っこく爽やかなイケメンさん。
ファイルを鞄にしまい「じゃあ、お疲れ様です」と踵を返し今度こそ帰ろうと思えば背中に再び「瀧さん」という声を浴びた。
「なに?」
「いや、あの」
振り返ればなにか言いたげな楓くんの瞳に捕まる。
「なに?」と問うけれど、もごもごと口籠っているのでなんて言っているのかは分からない。
と、ポケットの中で震えるスマホ。震え続けるそれに相手は分かっていた。
取り出して確認すればやはり電話の主は彼で。
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