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『偶然ですね』
と、彼のあの優しい甘い声音に包まれた。
脳と体が甘く痺れる。彼しか見えなくて。
どきどきがバレないように、きっと真っ赤であろう顔を隠すようにするりと俯く。
『全然、連絡くれないんですね』
『え、あ、あのすみません……』
『待ってました。ずっと』
『え、』
『あなたからの連絡』
その言葉に驚いて顔を上げれば、眉尻を下げて少し困ったように微笑む彼の顔。
どういう意味だろう。からかわれてるのかな。あの汚れたワンピースのことをまだ気にしてくれているのだろうか……?
『あ、あのすみません、本当にあのワンピースは大丈夫でしたので、そんな気にしていただかなくても』
『いや、あのそうではなくて』
『え、』
『あれは、わざとというか……』
『わざ、と……』
ん?あれ、わざととは……?
彼から溢れた言葉を瞬時に処理できない私はフリーズする。
私は、わざと、コーヒーをかけられたというのか……?
ぽかんとした顔で彼を見つめれば申し訳なさそうに唇を開く。
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