「一目惚れって信じますか?」

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『コーヒーがかかってしまったのは想定外なのですが、ぶつかったのはわざとで』 『……』 『なんなら、いまこうして、偶然会ったのも偶然ではなくて』 『えーと、』 『ちなみに、あのぶつかった日が初めましてでもないです』 綺麗な顔の男の人が、甘い声音でよく分からない言葉を口にする。 『僕のこと覚えてませんか?』 『えーと、すみません……』 記憶を遡る。けれどこんなイケメンと知り合いだったら忘れることなどないだろうなと思いつつ誰だ、誰だと検索するけれどヒットしない。 誰か別の人と、私を間違えているじゃないかな。 『通勤ラッシュの駅のホームで人混みの中、貧血で倒れそうになってる男を助けた記憶はありませんか?』 え。そのひと言でヒットした。 “あの、顔色悪いですけど大丈夫ですか?” “あ、すみません” “貧血ですかね?私もたまになるので、しんどいですよね。これお水。買ったばかりで新しいものなので飲んで少し座ってたら落ち着くと思いますよ” 「その顔は思い出してくれました?」なんておどけた口調で彼が言うから「あの時の」と呟けば目を細めて嬉しそうに微笑んだ。 『ふらふらだった僕に誰も気がつかなかったというか誰も興味なんてない中で、あなただけが声をかけてくれたんです』 『なんでですかね、ふと目がいってしまったというか』 『名前聞こうと思ったら居なくなってしまっていて』 『すみません、あの時は会社に遅れそうで急いでいて』
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