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「楓くん、すみません。明日の朝一で会社に持って行くでもいいですか?」
《え、あぁもしかして、いま旦那さんと一緒でした?》
「はい、本当にすみません。大好きな人と一緒なので」
《いいえ、こちらこそお休みのところ電話してしまってすみませんでした。では、明日会社で》
「はい、失礼致します」
電話を切ると「ねぇ」というもみじくんの少し笑みを含んだ声に捕まった。
「なんの話してたの?」
「……会議の資料渡すの忘れてて。その電話でした」
「ふーん」
「……あの、もみじくん」
「なんですか?」
「そろそろこの腕を解いてはくれませんか?苦しい……です」
「嫌です」
なんてことでしょう。私は、いまここで殺されるのかもしれないと思っていれば、ぎゅっと抱きついてきたもみじくんが、すりすりと私の背中に顔を寄せてくる。
なんでしょうか、この愛おしい小動物のような生き物は。
「さっきの、もういっかい言ってよ」
「どれ、ですか……?」
「あんずは、いま誰と一緒にいるんですか?」
「え、もみじくんです……」
「さっきはそんな言い方してなかった」
そう言われて、さっき自分が言った言葉を思い出してカァッと顔が熱くなった。
「あの、」
「うん」
「……大好きな人と、一緒にいます」
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