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異形なるもの
揺らめく水面から、ゆらりと一人のヒトが現れた。
祭壇の片付けをしていた人々は、声を上げ頭を地に擦り付ける。
「どうか鎮まり下さい。余所者がここに入り込んでしまいました」
余所者と言われたアーディは、手のひらを握りしめ耐えた。心の奥底がざわつく。
青い瞳に、エメラルド色の長い髪。ヒトの姿をしているけど、違うとすぐ分かる雰囲気を纏っていた。
「青年よ、名は?」
「アーディ。今日この場所に沈められた、リリの友人です」
「あの子はリリというのか。身寄りのない孤独な子だと聞いていたが……そうか、友人か」
背後で息を飲む音が聞こえる。
あえて孤独にして忌避していたのは、ここのものたちだ。
「リリを返してください。この地の守り神なら、リリもまた守られるべきでしょう」
黙っていない人々は、アーディを追い出そうとするが、神はそれを止めた。
「良い機会だから、皆に言っておこう」
今まで捧げられてきた者たちは、神域の中で生きていたこと。
地上に戻りたくないと、訴える者もいた。
そうして、皆は穏やかな神域で最期まで過ごしたこと。
「男女関係なく、贄にされた者はこの地の人々を怖がっていた。同じ人なのに優劣をつけて、虐げるとはどういうことだ?」
静かにしかし、腹の底まで響く声は威厳に満ちていた。
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