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普通ではないものたち
髪の色が違うとか、目の色が違うとか……能力が他の者より秀でいるだけで、人は畏れる。
とくに今アーディがいる場所は小さな集落のようなところなら、なおさらその傾向が強いだろう。
祀ればこの地を守る人神として、失えない存在になる。
実際は人柱など贄にしてしまうことが多い。結局、多数派ではないものを異端視してしまう。
見た目や能力が違うだけで、ごく普通の人だ。幼いならば、心も幼い。大人ならこの地に住む者を恨むかもしれない。泣きながら贄になった者もいるだろう。
絶望の中で沈んでいく人を救ったのは、今目の前にいる異形なるものだ。想像するだけでそれはどれほどの救いだっただろう。
この儀式がいつから行なわれていたなんて知らないけど、ごく普通の事として皆がなんとも思っていない顔を見れば……考えるまでもない。
慣習とはときに恐ろしいことだ。
「状況は知らないけど、友人を先に返して欲しい」
所詮よそ者のアーディが何を言っても仕方ない。ならリリだけでも無事に返して欲しかった。
**
「リリ!」
「アーディなの? 本当に来てくれたの?」
いつもの白いワンピースより華やかな衣装を纏うリリは、目の前にいるアーディを信じられないように見つめた。
「嘘までついたのに……アーディは本当に馬鹿よ」
涙を零しながらも、アーディに駆け寄り抱きついた。
白いワンピースに白いオーガンジーを重ね、金糸で独特の刺繍が施されている。
あとで聞いたら、贄にされるものの衣装との事だった。
それでもリリが無事であれば、そんな些細なことはどうでも良かった。
目の前に佇む人ならざるものは、アーディとリリを満足気に見ていた。
そうして集落のものたちに、再び対峙する。
「私の本性は水竜。だが、お前たちが思うほど私に天候へ干渉できる権限はない。今まで雨が降っていたのは、儀式のときの焚き木の煙とチリが雲を呼んだだけのこと。わかっただろう? 最初から人柱なんて必要はなかった」
ならなぜ今まで姿を表わさず、黙認してきたのかアーディは疑問に思う。
不意に水竜はアーディを見た。
「リリの友人とやら、お前には別の龍に加護されているだろう? それによって、私は人と話せる姿を取れた。感謝する」
アーディ自身の理解できないことが、水竜に変化をもたらしたらしい。
確かに巨大な竜の姿と、人の言語を話せないなら、意思疎通は難しいだろう。
「この者たちには、それなりの代償をしてもらう。それで良いか? それから私からも加護を与えよう」
アーディに近寄り、その額に指を触れる。
何も起こらない。
「アーディよ、西へ行け。求めるものはそこにあるだろう。それから、魅惑の加護を与えた。アーディの旅に幸運を」
そう言って、湖からリリと共に送り出された。
旅。水竜は確かにそう言って加護をくれた。この旅はいつ始まっていたのだろうか。
アーディ自身が求めるものとは、なんなのか……。何もわからないけれど、西へと言うならそこに探している何かがあるのだろう。
理性のある竜は、嘘で人を惑わさない。
なぜかアーディはそう確信した。
「リリ、一緒に来てくれるか?」
「喜んでお供します」
二人の短い旅は、いまはじまる。
【end】
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