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誘われる森
「ねぇアーディこの森はね、見る人によって色が違く見えるらしいんだよ。アーディは何色にみえているの?」
白いシンプルなワンピースの裾を翻し、リリは跳ねるように前を歩いていく。
栗色の髪の毛が、木漏れ日を浴びて光り輝いている。
「青じゃないのか? 変な色だなと思っていたけど……リリにはどう見えているんだ?」
「七色。私は魔力が他の人より強いから、そう見えちゃうの」
「七色? 魔力? なんだそれは。それより……さっきから普通に会話できているの、おかしくないか?」
魔力。なんとなく聞き覚えがあるけど、それがどういうものかアーディは知らない。
リリは振り返り、後ろ向きに歩き出す。
「言葉が通じないと不便でしょう? 軽く意思が通じるようにしておいたの。ほら、口の動きが違うでしょう? この大陸は大きいけれど言語は統一されているから、早く覚えちゃえば楽だよ」
言葉を覚えるまでこの村にとどまればいい、と彼女は言う。
「いやでも俺には……何か探さないといけないことが、あったはずなんだ」
「そうなの? でも、一人で探すより言葉を覚えて協力者を求めたほうが良いわ。私の家はこの海に近いからしばらく一緒に住みましょう?」
幼女とはいえ女性の家に住むというのは、気が引けた。
そんな様子に気づいてリリは笑う。
「ごめん、大切なこと言ってなかった。私の性別は男だよ。魔力が強すぎる者は変なものに魅入られやすいってことで、性別問わず女性の格好で一生を過ごすのよ。といっても……ここまで力を持つ人は私以外にはいないけどね」
リリは視線をはずして、前に向き直す。
足取りは重く、彼女を取り巻く環境はあまり良くないのなのだろう。
リリは暗い声で話を続けた。
「青は、悠久のときを視る。きっとあなたは遠くから来たのね。森が青く見えた者は、誰もいないのよ」
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