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森の泉
「さぁ、ここがこの森の泉よ。体力回復の効果もあるから飲んで」
再びアーディにわかるように話をするリリは、先ほどのさみしそうな雰囲気はすでになかった。
「このまま飲んで、大丈夫か?」
「大丈夫よ」
暗にお腹を下さないかを心配したけど、リリは笑い安心させてくれる。
泉の上だけ森がひらけ、青い空が見えた。
光が泉に降り注ぎ、乱反射する光は何かを思い出しそうで思い出せない。
けれど確かに、記憶の何かに引っかかった。
泉の淵に両ひざをついて、両手で水をすくう。
零れる水は煌めき泉へ帰っていく。
両手に残った水を口に含み、ゆっくり飲み込んでみる。
腹の底からあたたかなものを感じる。それはやがて全身に広がり指の先まで届く。
「アーディ、この場所は秘密ね。自然のもので人が独占してはいけないものなの」
「そんなものか?」
「人の欲望とは……恐ろしく醜いものよ。だけどね、何があっても生きることを大切にして。これはリリとアーディの約束よ」
見た目にそぐわない言い方をするリリは、青空を見上げていた。
その姿は泣いているようにも、この世界に絶望しているようにも見える。
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