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秘密
アーディはリリの家に行かずに、森にひっそり住み始めた。
言葉、文字、風習。
それらを教えてもらうために。
ただ、リリの暮らす場所は避けた方が良いと、本能的に感じた。
だから、こうして森の奥で野宿している。
「おはよう、アーディ」
いつもの白いワンピースを身につけて、嬉しそうに今朝も来た。
「おはよう。はやいね」
「いろいろあってね。ほらバケットと果実酒よ」
「いろいろ……?」
ある程度の会話は出来るようになったけど、完全に習得するにはまだまだ時間がかかりそうだった。
「今日はあまり時間がとれなくてね……。それとプレゼントを持ってきたの」
会話が魔法によって、理解出来るものへ変わる。
忙しい時などは、こうして会話することもあった。
「プレゼントって、なに?」
「アーディが言葉や風習を覚えるまで、私がそばにいられるとは限らないの」
リリの手のひらから、シンプルな銀製のペンダントを受け取る。
先の飾りには青く透明な石がはめられていた。
「……私が来れなくなったときに、アーディが困らないように。その宝石に魔法を込めておいたわ。五年くらいは使えるからね」
少し寂しげにリリは説明する。
なにか事情があるのかもしれない。
「リリ?」
アーディが呼びかけると、リリはにこりと笑う。
「実はね……」
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