秘密

1/1
前へ
/11ページ
次へ

秘密

 アーディはリリの家に行かずに、森にひっそり住み始めた。  言葉、文字、風習。  それらを教えてもらうために。  ただ、リリの暮らす場所は避けた方が良いと、本能的に感じた。  だから、こうして森の奥で野宿している。 「おはよう、アーディ」  いつもの白いワンピースを身につけて、嬉しそうに今朝も来た。 「おはよう。はやいね」 「いろいろあってね。ほらバケットと果実酒よ」 「いろいろ……?」  ある程度の会話は出来るようになったけど、完全に習得するにはまだまだ時間がかかりそうだった。 「今日はあまり時間がとれなくてね……。それとプレゼントを持ってきたの」  会話が魔法によって、理解出来るものへ変わる。  忙しい時などは、こうして会話することもあった。 「プレゼントって、なに?」 「アーディが言葉や風習を覚えるまで、私がそばにいられるとは限らないの」  リリの手のひらから、シンプルな銀製のペンダントを受け取る。  先の飾りには青く透明な石がはめられていた。 「……私が来れなくなったときに、アーディが困らないように。その宝石に魔法を込めておいたわ。五年くらいは使えるからね」  少し寂しげにリリは説明する。  なにか事情があるのかもしれない。 「リリ?」  アーディが呼びかけると、リリはにこりと笑う。 「実はね……」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加