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押し付けられた宿命
リリは空を仰ぐ。
この泉の真上は空がポッカリと空いている。
「アーディ、あなたがここに来てから雨は降ったかしら?」
「雨? いやでも泉は……」
「この泉には守り神がいるからね。枯れることはないの」
雨が降らない、リリはそう呟く。
アーディが目が覚めてこの森に来てから、雨は一度も降らなかった。
日数は数えていないけれど、軽く2ヶ月は晴れたまま。
水を蓄えておくことが出来ないなら、水不足というよりもっと危機的なーー。
「アーディ、だから今日でお別れ。今までありがとう、楽しかったわ」
「待ってリリ、君が犠牲になったとして……本当に君の家族は救われるのか? 俺はリリに生きていて欲しい」
そんな言葉にリリは、頭を振る。
まるでアーディにはどうにも出来ないことだと言っているようだ。
「家族が皆、仲良しだと思うの? だとしたらアーディの家族は幸せだったのね。私は疎まれる存在なのよ。誰もこの事実を変えることは出来ない。アーディでもね」
そう言い切るリリは達観していた。
そんなことを納得して欲しくない。
「雨乞いの儀式は明日の朝。アーディが何とかしたいというなら、その時までしか時間はないわ」
期待のこもらない声が、リリから零れる。
それでも可能性があるなら、アーディは何とかしたいと強く願う。
「言い伝えなんだけどね、この森には一匹の竜がいるの。水を操り、天災を鎮める。私は見かけたことはないけど」
「分かった、明日の朝だな」
ずっと空を仰いでいたリリは驚いてアーディを見た。そしてその目から涙がほろりと、落ちる。
リリが初めて年相応に見えた。
幼く独りで不安を抱え、家族にも疎まれたリリ。
「アーディ、あなたには出来ない」
「それでも、その竜を見つけなきゃいけないだろう? 家族がリリをどう思っても、リリが家族を大切にしているなら」
ここでようやくリリは、声を出して泣き出した。
独りで耐えるには重すぎる。
日が傾く頃にリリは泣きやむ。
そしてにっこりと笑った。
「アーディ、ありがとう。この世界で私を大切に思ってくれる人と出会えてよかった」
リリはそう言い残し、森を去っていく。
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