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枷の一部解除
封じられた記憶のほんの一部が蘇る。
炎に包まれた街、兄の『生きろ』という言葉。
乗せられた小舟は、荒波で沈んだ。
そして運よくここへたどり着き、リリに助けてもらった。
生きることは何よりも大切なこと。
生きて生き延びて……思い出せないけれど、何か大切なものを探しに行かなければいけない。
なのに、リリと突然の別れ。
「この湖に何がいるんだ?」
「この村の守り神が……」
守り神なのに、人の命を奪うのか。
この村の人とは話にならないとアーディは考えた。
祭壇をよけて湖の淵に立ち、声を上げた。
「この湖に棲むものよ、姿を見せてくれないか」
アーディの話し方に祭壇の近くにいた者は、目を吊り上げる。
けれどそんなことはどうでも良かった。
「聞こえているんだろう? 話をしよう、取引だ。悪くない話だと思うが?」
**
アーディの声に応じるように、凪いだ水面に波紋が広がる。
どんな大物が出来るのだろうと、身構えた。
確かにこの湖になにかがいる。
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