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夏の夜の夢は月下に花を咲かせる
それは情熱の白い花が咲き匂う初夏の夜。
*
友達も先生もいない部屋で僕は画面に黙々と並ぶ数式の空欄に、記号や数字を淡々と当て嵌めていた。
学校へ行ければ、生活リズムだけでも周りと溶け込むことができるのにな。
高校に入ってすぐ喘息が悪化してから僕にはそれすら許されていない。
――今日はここまでにしよう
散歩にでも行こうとPCの電源を落とす。
道すがら会う高校生が友達同士で会話でもしていたら、どんな事を話題にしているのか聞けるかも。断片だけでもいい。
我ながら寂しい奴だな。
軽く髪を整えようと鏡に映った自分の顔は青白かった。
おまけに垂れ目なのも手伝って生気の感じられない瞳をしている。
背だけ伸びすぎた植物の様にやせ細っている身体もとても10代とは思えない。
一瞬外へ出るのを辞めようかと躊躇しつつ前髪を手早く整え終えていた。
どうせ自分のことを知っている人と会うことはないしいいか。
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