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「わたしのことを死神だと思ってた耀には一生つきまとってあげる」
「悪かったな。罪滅ぼしに一生かけて面倒見てやるよ」
昼間は僕が美月の世話をして、夜は美月が僕を喘息から守るという日々が過ぎた。
薬は僕の喘息によく効いて苦しむ事はなくなった。
美月はよくあの曲を弾いてとねだる。
もちろん僕は喜んで演奏する。
演奏中はずっと僕の隣で楽しげに体をゆらゆらさせてリズムに乗っている。
ただ逃避の為だけに弾いていた時とは違って、夏の夜の夢の恋人達にも本当の笑顔が戻ったみたいだった。
楽しい。ピアノってこんなに楽しかったんだな。
自然と口元が綻ぶ。
「お薬の時間ですよー」
美月が笑ってじゃれついてくるから、つい先日の事を期待してしまう。
「はい、あーん」
しかし美月は無邪気で無慈悲にも葉から僕の口へ流しいれた。苦い……。
「まっず」
「後ちょっとだから、それまでは頑張って」
「どういうこと?」
「開花の夜、耀の喘息治るよ」
月下美人は開花すると一夜限りで朝方には萎んでしまう。
だけど花は毎年咲くから……でももし何らかの力を消耗しているのなら美月は――。
想像したくない予感を覆してくれる一縷の望みを持って聞いた。
「そしたら美月はどうなる?」
「こうして過ごせなくなるね」
寂しいとも、心を決めているともとれる表情で、長い睫毛を伏せ美月は僕に告げる。
胸の奥に冷たい刃が掠めた。
「嫌だ」
声をわななかせる。
――喘息は治らなくてもいい。だから
美月は凛として僕を見据える。
「綺麗に咲くことはわたしの生きることなの」
何かを言いたげな僕に美月は続けて言う。
「わたしを助けてくれた耀をわたしも助けたい。ただ咲くだけじゃ嫌なの、欲張りだよね」
そう言って笑う美月は昼間に咲く向日葵みたいに明るかった。
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