夏の夜の夢は月下に花を咲かせる

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「あっつ……」  外に出ると暴力的な眩しさとむせかえる熱気に早くも怯みそうだった。  梅雨真っ只中の時期だけどこんなに暑かったっけ?  そういえば今年は雨が少ないよな。  まさか皆この独裁的太陽の下を毎日くぐり抜けて学校や会社へ行ってるのか?  門まで遠いな。もう引き返したい。  家は無駄に大きいし。広い家なんて嫌いだ。  ――だめだ  太陽から顔を背ける様に僕は思い直す。  もう少しだけ、もう少し行こう。  黒塗りの高くそびえ立つ門の前に辿り着くと、また気持ちが盛り上がってきた。  これは僕にだけ開かれる異世界への扉だ。  そう意気込んで一度死んだ気になって外へ出てみても、特に誰かが歩いてるわけでもなかった。  コンクリートの灰色がほぼ埋め尽くしていて殺風景な建物と電柱が平凡に連ねているだけ。 空の青と雲の白がやたらと眩しかった。  手で目を覆いながら見上げてみると、少し先に何かの植物が目に留まる。  行ってみると、ゴミ捨て場に鉢植えごと置かれていた。  太陽の無慈悲な白い光にあてられすぎて土は乾ききっている。  もとは生命力溢れていた大きな葉も、咲けばきっと美しい大輪の花が咲くに違いない蕾もすっかり生きる気力を失っていた。  でもまだ枯れきっていない。  捨てられたばかりみたいだ。  ふと、この花に幼い頃からの自分を重ね見る。  ご飯の時も別々で、隔離されるように遠い部屋。  夜中に起こる激しい喘息も幾夜となく乗り越えてきた。  この捨てられた花が気まぐれに降る雨で今日まで生き存えてきたように。  ――持ち帰るか
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